■セダンに変わるファミリーカー
高度経済成長期からバブル期に当たる1970年代から1980年代、
ファミリーカーといえば断然セダンでした。
郊外のマイホームとコロナやブルーバードなどのセダン車の
組合わせが日本の「幸せな家庭」の象徴となっていました。
しかしバブルが崩壊による日本経済の長期低迷や地球規模での
環境問題によってコンパクトなエコカーの需要が高まり、さらに
チャイルドシート着用の義務化が、車内空間が限られるセダンには
追い打ちとなり、かつての勢いを失っていきました。
そんなセダンに代わってファミリーカーの地位を得たのは、
3列シートを持つ5ナンバーミニバンでした。
セレナやノアなどに代表される5ナンバーミニバンは、2010年代
には新車の販売台数の約1割を占めるまでになったのです。
セダンと比べて圧倒的に広い室内空間を持ち、3列シートによって
座席数の増加も実現させました。
お父さんお母さんと子供に加えて、おじいちゃんおばあちゃんまで
乗れてしまい、セダンでは積めなかった家具や大物家電も積むこと
ができ、果ては赤ちゃんのオムツ交換すらも容易に出来てしまう
のです。
休日を家族と楽しむお父さんにはもってこいですし、独身であっても
大勢の友達と一緒に楽しみながら移動が出来ます。
ユーザーにとってこれだけのメリットがあり、かなりの新車販売台数
を誇っているのですが、メーカーにとっては手放しにありがたい存在
とは言いにくいのです。
■無茶な設計要件
ミニバンの設計要件は多岐に渡り、そのどれもが高いハードルと
なっているのです。
まずミニバンには大型のスライドドアと開口部が大きいテールゲート
が必須となりますが、これらはボディの剛性にとっては大敵となる
のです。
分かりやすく言えば、開口部をガムテープで止めていない
ダンボール箱のようなに簡単に変形してしまうのです。
また車内の移動がラクなウォークスルーも売りであるため床の
出っ張りは厳禁となり、センタートンネルを作ることで剛性を生み
出すことも出来なかったのです。
さらに乗り降りや荷物の積み下ろしをしやすくするためにドアや
テールゲートに敷居を付けることも出来ず、車内空間が狭まったり、
車高が高くなったりすることから床の厚みを増すことも出来ません
でした。
要するに十分なボディの剛性を得るための手段が全て否定された
のです。
ボディだけでなく機構においても無理難題を押し付けられます。
ミニバンはセダンに比べて車高が高いので重心も高くならざるを
えず、人が乗ることによってさらに重心が高くなり、カーブを曲がる際
の遠心力がより強く自動車に掛かることになります。
また定員数が増えたことにより、車両重量を合わせた総重量は
2トンを超えることも想定しなくてはならず、高い重心かつ大きい
重量に耐えうる機構を持つ必要があります。
そのためにはより屈強なサスペンションを備えなければならない
のですが、ファミリーカーである以上販売価格を出来る限り抑え
なくてはならず、販売台数が多いとは言え高価な部品は使えません
でした。
要するに性能の劣る安価な部品を使用した上で、大きな遠心力に
耐え、さらに低速走行時の快適性も追求しなければならなかった
のです。
燃費性能ももちろん求められることになり、大重量を動かすパワーと
高い燃費性能を備えた上で出来る限り安価なエンジンを積むことも
迫られたのです。
このような相反する要件を全てクリアして、現在のミニバンは製造
されており、数多くの制約の中で究極に成熟し、ユーザーの要望を
極限まで叶えた自動車と言え、これ以上の性能アップはメーカに
とっても難しいと言わざるをえません。
■ミニバンのメンテナンス
そんなミニバンの中で、現在ではハイブリッド仕様が投入された
ことでトヨタのノアやヴォクシーに遅れをとっていますが、長らく
販売台数1位を誇った日産セレナについて見ていきたいと思います。
ミニバンだからといって特別なメンテナンスが必要なわけではなく、
日常の点検と定期点検、オイル類の交換が重要となります。
オイル交換は重要ではありますが、それほど頻繁に行う必要はなく、
エンジンオイルであれば走行距離1万km(心配な人は7~8千km
でも構いません)を目安に、ブレーキオイルなどは車検ごとに交換
するぐらいで良いと思います。
長く乗っているとどうしてもホースやパッキンなどのゴム部分の
劣化は避けられず、これを放置するとより高額な修理へと発展
します。
例えばラジエターホースの交換であれば数千円程度で収まりますが、
放置してオーバーヒートによりエンジン交換となると数十万円掛かる
ことになるので、点検でゴムの劣化が判明した場合には速やかに
交換するようにしましょう。
またドアやハッチバックなどのテールゲートといった開口部が広い
ため、閉める際に力を加えすぎると車体の骨格部分の歪みを生む
ことになります。
骨格部分の歪みは自動車を売却する際の査定にも影響しますし、
バンパー交換にも大きな影響を及ぼすことがあり、バンパー交換
だけであれば新品に交換しても工賃込みで5万円程度で済みます
が、骨格部に歪みがある場合には交換費用含めて10万円以上の
修理費が掛かることもあるので注意してください。